逢沢りくーおとなでもまちがえることはあるの。ゆるしてあげるの
第19回手塚治虫文化賞の大賞を受賞した作品。
以前から読んでみたいなと思っていましたが、上下巻それぞれ1000円という、漫画にしては高値に躊躇していました。
今回、文庫化されているのを書店で発見。 迷わず購入しました。
機能不全家庭で育った心に問題を抱える主人公、逢沢りく(中学生)が、関西の親戚の家に預けられ、そこでの人々との触れ合いを通して、少しづつ変わっていくお話しです。
母娘確執の問題を扱った本でもあります。
本書に出てくる母親の抱える問題は、不倫相手が母親を分析した一言がよく表しています。
君はいつも自分を必要としている人を自分に引き寄せて
その後、思いっきり突き放す
そして相手が傷ついているのを見て安心してるだろ
相手の傷が深ければ深いほど、
自分が必要とされてると思ってる
主人公が関西の親戚に預けられることになった決定的な出来事は、飼っていたインコを主人公が家族の前で握りつぶして殺そうとしたことにあります。
ですが、そのインコ、実は父親の不倫相手が父親に買わせて、嫌がらせで母親に飼育させていたものでした。
その事実を知っていた主人公は、嫌がっているであろう母親を救うためにした行為でしたが、母親は理解できませんでした。
主人公の父親と母親は、お互いが不倫をしていることを知っているので、どこかで感づいていたと私は思います。
娘の預け先の関西の親戚は、母親が以前から嫌っていたのを主人公は知っています。
母親が関西弁を嫌うのも知っています。
それでも「私とあなたのためだから」
「戻っておいで」の言葉を待っている娘に対して、娘がいらないと言っている転校先の学校の制服を誕生日プレゼントに送ったり、その行為に娘が傷ついている自覚はありません。
人前で嘘泣きはできても、一人で本当に泣くことはできない。
本音を言うことができない。
関西弁を使うことを頑なに嫌がる。
動物になぜか嫌われる。
主人公が抱える心の闇が、分かりやすい形で序盤にちりばめられていて、最後にバーッとそれらが回収されていく瞬間が見事でした。 涙腺がワッと崩壊しました。
主人公に大きな影響を与えたのが、預けられた先の夫婦の孫にあたる男の子。
年少さんくらいの男の子で、重い病気を抱えていますが、本人はそのことをしりません。
母親から家に戻ってくるように言われた日が、男の子が生きるか死ぬかの大事な手術を終えたばかりの日。 最初は面会をせずに家に戻ろうと思っていた主人公ですが、「試験があるから」と嘘をついて、戻る日を遅らせます。 なぜ嘘をついたのか主人公は自分でも理解ず戸惑います。
手術後に主人公と男の子が電話で交わした言葉の中に、主人公が変わるきっかけとなった一言がありました。
お姉ちゃん、あんな司お兄ちゃんとおじいちゃんはまちがえたの
おとなでもまちがえることあるの
ゆるしてあげるの
母親が間違っていることに気付いた瞬間、そして許すことを男の子に教えられた瞬間でした。
作者のほしよりこさんは、「今日の猫村さん」の作者さんでもあります。
あの独特のタッチは健在で、十分見やすくて分かりやすいのですが、横に三分割のコマの降り方が絵コンテを彷彿とさせて、実写化したら面白そうと、思わずにいられませんでした。
主人公は作中で中山美穂さんに例えられるような美少女です。
今なら誰かな?