新しい道徳「いいことをすると気持ちいがいい」のはなぜかー道徳を他人まかせにしてはいけない
まず、最初にお願いしておきたい。
他人の言ったこと、他人の書いたこと、あるいは他人の考えたことを、そのまんま鵜呑みにする性癖の読者は、ここですぐさま本をパタンと閉じて捨ててしまって頂きたい。
「はじめに」の冒頭に書かれたこの言葉。
最近、心理学系の本を読むことの多い私に、夫が「(本に書かれていることは)この人(作者)の考えの一つに過ぎないんだからね」と、影響を受けやすい私を危惧して言ってくれたことがありました。
そんなことがあったので、「はじめに」でわざわざ似たような断りを入れている北野武さんの優しさに触れたような気がして、恩返しの気持ちで買ってみました。
道徳は社会秩序を守るための規則。
道徳は人間関係を円滑に進めるための技術。
そして、時代によって変化するもの。
権力者が変われば、道徳も変わる。
教科書で教わった道徳を絶対だと信じるからおかしくなる。
道徳を他人まかせにしてはいけない。
一読の後に私の中に残った言葉です。
鵜呑みにするなと忠告されていたので、学校で教わった道徳が本当に正しいのかどうかとか、そういう細かいところまで、考えないようにしました。 私が考え出すとロクなことがないので(汗)
本書の中で一番好きだったところ。
大学を辞めて、俺は芸人の世界に飛び込んだ。 それは、俺にとっては、群から飛び出すということで、自殺するにも等しい決断だった。
それまでの俺は、いろいろありはしたけれど、結局のところは母親のいうことに従って、自分はこの社会でという群の中で生きていくものだとばかり思っていた。
道徳の話に引き寄せて言えば、それまでの俺は母親の道徳観の中で生きていた。
大学を辞めることを自分で決めたとき、俺はその母親の道徳観から飛び出したのだ。
自殺するにも等しいと書いたけれど、ほんとうにあのときはそれくらいの覚悟が必要だった。 浅草でのたれ死にしてもいいと、本気で思っていた。
芸人ならのたれ死にしても格好いいやなんてうそぶいていたけれど、内心はそんな格好いいものではなかった。 ただ、今でも忘れられないのは、そうすると心に決めたとき、見上げた空がほんとうに高くて広かったってことだ。 ああ俺は、こんなに自由だったんだなあって思った。
子供はなんだかんだいって、親や学校に教わった道徳観の下で生きている。 大人になるということは、その誰か他の人が作ってくれた道徳の傘の下から出て、自分なりの価値観で生きる決断をするということだと思う。
のたれ死にする覚悟をしたくらいだから、成功する保証なんてどこにもない。 いや、成功するなんて思ってもいなかった。死ぬ気で飛び出したら、なんとか生き延びたというだけの話だ。
だから、読者も群れから飛び出してみたらいい、とはいわない。
道徳については他の誰かも書いているかもしれないけど、ここは北野武さんじゃないと書けない話だなと、印象に残りました。
最後の一言も、やっぱり優しいなと。
死んでもいいと思って生きているわけではない。 でも、そうでも思わないとやっていけない日もある。 そんな日々を繰り返しているうちに、気づいてたら生き延びていたって、私も思いたい。